同じことの繰り返しにこそ意味がある理由

バレエ

どう踊ってもいつも物足りないの

何かが足りないっていつも思うの

だから考えるの

深く深く考えるの

そこまで考えても、作品の深さには届かないわ

いつか本当に満足できる事ってあるのかしら

繰り返される演目たち

ベローナ ジュリエット像

クラシックバレエ

皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?

美しい女性達が美しく優雅に踊っている

初めて見た時は、きっとそう感じるでしょう

でも、それだけではありません

不思議な事に、同じ演目が長きに渡って何度も何度も繰り返されています

どうして飽きないのでしょうか?

バレエ・ガラコンサート

世界的なバレエダンサーのコンディショニングをお手伝いさせていただきました

そのご縁もあって彼女の舞台を観るご機会をいただきました

今回は、トップバレエダンサーたちがそれぞれ、有名なバレエ演目のさらに有名なパートを踊る

いわゆる『バレエ・ガラコンサート』でした

彼女が踊る演目は

『ロミオとジュリエット』有名な『バルコニーでの再会のシーン』

直情的なロミオがジュリエットに愛の告白

両家の関係を思って戸惑うジュリエット

でも互いの愛の前についには受け入れる

全幕では1幕最後のパドドゥ(主役2人がペアで踊る)になります

幕間でお客様の気持ちが舞台から離れがちです

ですので、観客の2幕への待ち切れな気持ちを作る、とても大事で重要な場面です

ロミオとジュリエット

ロミオとジュリエット - Wikipedia
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典より

言わずと知れた名作です

内容についてはウィキペディアをご覧ください

ロミオとジュリエットの悲恋は過去から現在、きっと未来まで語り継がれることでしょう

クラシックバレエの『マイム』とは

クラシックバレエには決まった動きで心情を伝える『マイム』というものがあります

たとえば『愛の誓い』

  1. 左胸、心臓のあたりを両手で包み込む
  2. そこから胸に片手を残したまま、もう片方の腕を伸ばし中指人差し指をそろえて天を指し示す

とても分かりやすいですね

しかし、今回の『バルコニーのシーン』

ほとんどこのテンプレにあたる『マイム』がなく進行します

迫真の演技

ヴェローナ ジュリエット生家といわれる屋敷

月明かりにマントを全身にまとった1人の男が庭に現れる

そして庭木の間に身を隠しながらバルコニーの様子をうかがう

男はバルコニーに誰もいない事に落胆

でも、うなだれながらも硬く握り締めた拳を自分の胸に

強い決意を感じる

マントの男はもう一度バルコニーを見上げる

ジュリエットがバルコニーに現れる

月を見上げ、それに負けない輝かしい笑顔を浮かべる

バルコニーの手すりを優しく撫でながら今夜のパーティーの余韻を思い出している

男は走ってバルコニーの下へ

ジュリエットは誰かが庭を駆け抜けるのを目撃

ジュリエットは驚いてバルコニーから離れる

でも

もしかすると

ロミオ様かも

ジュリエットはおそるおそるバルコニーに戻り、下をのぞき込む

マントの男がバルコニーの下から頭を出す

そして頭を覆ったフードを下す

そこには満面の笑顔のロミオがジュリエットを見上げている

それをバルコニーの上からのぞき込むジュリエット

恐れ、勇気、興味、感激、愛してる

ジュリエットの全身から目まぐるしい感情の変化がほとばしる

ロミオをツタを登ってバルコニーへ

ジュリエットの手を取って再会を喜び、自分の愛情の確かさをかみしめる

ジュリエットもロミオへの愛が真実の愛と思う

 

ここまでバレエのパ(踊りや振り付け)は全くなし

ですが、歩き方、体の使い方、ムーブメント

そこにクラシックバレエの独特の哲学が組み込まれています

見ているお客さんは舞台の演技を見ているのに

バレエの踊りを見ていると錯覚させる説得力がそこにありました

奇跡のパ・ド・ドゥ

ヴェローナ イタリア

フロアに降りて二人の踊り『グランパ・ド・ドゥ』が展開します

再会を喜ぶ二人

ともに初めて恋を知り、その喜びを全身であらわします

しかし、その二人の感情に温度差が出てきます

初めて人を愛し、その情熱に身を任せるロミオはどこまでも一貫性があります

しかし、ジュリエットは

ロミオへの愛、少女の本能的な恥ずかしさ、そして、両家の絶縁状態を理由にロミオを諦める理性

これらの感情がコロコロと変化させるジュリエット

ロミオととても対照的です

ジュリエットの気持ちが離れるのを感じるたびに、強い愛を訴えて引き戻すロミオ

その度に出会ったときの情熱を取り戻すジュリエット

しかし、また時間の経過とともに不安が増してくる

このやり取りを何度か超えて

ジュリエットはロミオへの愛を貫く決心をする

 

そして、『奇跡のパ・ド・ドゥ』がここから始まる

愛を貫く決心をしたジュリエット

ロミオがジュリエットを求める以上にジュリエットはロミオを求めます

どうやってそれを表現したのか

踊りの質が濃密になった?

大人びたジュリエットの演技で表現した?

違います

『音』の使い方を変えたのです

決断の前、ジュリエットのバレエは流れる音楽に対して『音』に本当に些細に遅れていました

それは観客が気づくか気づかないかのレベルです

そして、決断の瞬間後

踊りの質は全く変えていません

しかし、『音』に対してまるで音楽を煽るかのように動き出しが早くなったのです

ロミオはそのジュリエットの変化に逆に戸惑う焦りを感じる踊りにシフト

ロミオの素晴らしい演技もまた圧巻です

そして、パ・ド・ドゥ最後のシーン

立場が完全に逆転していました

ひざまづくロミオがジュリエットのウエストを抱きしめる

ロミオの頭を聖母のように優しく包み込み見下ろすジュリエット

こうして幕は降ろされました

 

今夜のガラコンサートは、世界のキラ星のごときトップバレエダンサーが最高のバレエを繰り広げていました

しかし、この時の会場を揺るがすがごとくの割れんばかりの拍手、ブラボーの歓声は全く質が違っていました

同じ演目が繰り返される理由

ジュリエット生家の前にはられたメッセージたち

後日、また彼女のコンディショニングをする機会をいただきました

私はありのままの感想を伝えました

「私は初めてバレエが音楽と共にある必然性を理解しました

まさか、『音』に対して遅い、早いであれだけの表現が可能なんですね

本当に驚きました

そして、最後の抱きしめるシーン

ラストの短剣で胸を貫きながらロミオに身を重ねるシーンの瞬間が頭に浮かびました。」

彼女は本当に嬉しそうに私の感想を聞いていました

「わかった!

わかった!

うわーうれしいわ!」

英語でなく彼女の母国語が飛び出してました

実年齢からは想像もしないぐらい、かわいい少女のように反応です

そしてプロフェッショナルの顔に戻ってこう言いました

 

「どう踊ってもいつも物足りないの

何かが足りないっていつも思うの

だから考えるの

深く深く考えるの

そこまで考えても、作品の深さには届かないわ

いつか本当に満足できる事ってあるのかしら。」

 

彼女は本当の満足を得るがために同じ演目を踊り続けるでしょう

そして、私もまた別の発見があるのではと思って同じ演目を何度も何度も繰り返し観る事でしょう

 

最後までお読みいただきありがとうございます

こころが変われば世界が変わる

人生のこの瞬間に感謝を

 

「このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

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