音楽の調べと共鳴する心が紡ぐバレエの深淵~音楽との融合が開く新たな世界~

バレエ

バレエは言葉ではない

ただの音楽でもない

思考を伝えるものでもない

真の心の声がそこにあるだけだ

ミハイル・バリシニコフ

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舞台裏で繰り広げられる、一人の少女のバレエへの情熱と成長の物語

皆さんはクラシックバレエを御覧になったことがありますでしょうか?

まるで夢の世界のような美しさがそこにあります

 

小学校3年生の奏美(かなみ)は、そんなバレエが大好きな女の子

8月のバレエ発表会に向けて日々の練習に励んでいました

彼女は発表会での自分のパートでセンターのポジションを勝ちとりました

その喜びと緊張を胸に、奏美は心を込めて踊りを磨いていました

 

しかし、本番直前に予期せぬ困難が彼女を襲います

体調の不良や学業、練習の忙しさに悩まされ、奏美の心は揺れ動きます

奏美の父・宏樹(ひろき)は、娘の情熱と努力に胸を熱くする一方で、葛藤する彼女を見守る心情を抱えていました

 

そして、迎えた本番当日、

奏美は本番のステージで一つの魔法がかけられます

 

この物語では、奏美と宏樹の心の葛藤や成長、音楽とバレエの融合の世界、

バレエの舞台裏に秘められた感動と喜びを垣間見ることができます

さあ、一緒に奏美と宏樹が感じた奥深いバレエの世界に皆様をお連れします

努力の結晶、ハンガーにかかる夢

小学校3年生の奏美(かなみ)は8月のバレエ発表会を控えていた

普段の練習に加えて、発表会の練習が続いていた

奏美の努力のたまものだろうか、彼女は自分の踊るパートでセンターのポジションを勝ち得た

奏美は本当にうれしかった

そして、本番で着る衣装もその時手元に届いた

その衣装は自分の部屋にハンガーにかけた

それを見るたびに少し胸がドキドキするのを感じた

万全でない心と体、不安で終わったリハーサル

本番まであと2週間というとき、一学期終業式に向けての学校や他の習い事で目まぐるしい日々を過ごしていた

奏美は発表会を思ってすべてに真剣に取り組んでいた

だが思いとは裏腹に、疲労をどんどんと蓄積されていった

 

そのためだろうか、奏美は原因不明の咳が数日続き、

その後、40度以上の発熱をして寝込んでしまった

発熱は3日で平熱に戻ったが、食欲や体力が戻ってきてはいなかった

 

奏美の所属するバレエ教室は全国に支部を持ち、

発表会の直前に本校にて代表者である本校の校長先生の前でリハーサルを行うのが習わしだった

奏美は本番前の練習の不足を補って何とかリハーサルに間に合った

リハーサル後、校長先生は生徒たちの技術レベルより、気持ちの頑張りにたくさんの声をかけてくれる

しかし、この日、センターでみんなを引っ張る立場であった奏美に、言葉を投げかけられることはなかった

舞台への不安と期待、そして踊る勇気

リハーサル後からの数日間、奏美は重たい体に無理をして振り付けを何度もなぞった

じっとしてると、不安に押しつぶされそうになったからだ

 

父の宏樹(ひろき)はそんな奏美の様子がとても心配だった

宏樹は奏美に「上手に踊るってそんなに大事なの?」と聞いた

 

「パパは、上手に踊ろうって頑張る人ってすごいと思うけど、客席から見てるとドキドキしちゃうんだ。

だって失敗したくないって気持ちが伝わってきて、こっちも苦しくなっちゃうから。」

宏樹は続ける

「失敗しても間違えてもいいから、奏美には楽しく踊って欲しいな。

むしろ失敗して欲しい!

本気でかんばって失敗した奏美が見たい。」

宏樹は最後は冗談を口にしたがようだが、果たして本当はどんな気持ちだったのか

奏美にほんの少しでも勇気をもって欲しかった

ただそれだけだった

楽しく踊るバレエの一歩先を感じて

緊張と期待が交錯する本番当日の朝を迎えた

いつもなら本番前は舞台が楽しみで仕方がなくてソワソワしてるのに、この日は奏美は違った

 

「本番の曲を聞きたいな。」

宏樹はスマートフォンに録音してある本番用の曲を流した

奏美は最初はただ聞いていた

しかし、途中から体が勝手に動きだした

狭いリビングであるにも関わらず、流れるように踊り切った

音楽に乗って心地よく、自由に舞っていく奏美の姿が、宏樹の心を温かく包み込んだ

たった数分の短いバリエーション、しかし踊り切った奏美の首筋からは、

汗がほとばしって流れていた

 

宏樹は大きな拍手を送った

その瞬間、舞台の上ではなく、自宅のリビングで踊る奏美が、一人の父親の心を満たしていた

「すごい、奏美!本当にすごいよ!」

宏樹は笑顔で言った

「自分を信じて、楽しんで、それが一番大切だよ。

本番でも、きっと素晴らしい踊りが出来るよ。」

宏樹は目を輝かして奏美に語りかけた

神秘の暗がりから、まばゆき閃光の世界へ

奏美は楽屋で準備をしていた

すでに発表会は始まっている

楽屋にはモニターがあり、そこには現在の舞台の様子が映っている

楽屋で小さな子供たちはワイワイと本番を楽しみにしている

逆にお姉さんたちは本番を意識して強がってみたり、おどけてみたりしている

その理由が緊張であることを奏美に知っていた

楽屋はいつものように汗と化粧と人ごみの空気の重さがそこにあった

 

「さっ!本番よ!」

 

お教室の先生が明るく元気にみんなに声をかける

独特の緊張感の空気に包まれて舞台袖への狭い廊下を進んでいく

 

「自分を信じて、楽しんで、それが一番大切だよ。」

 

宏樹の言葉を何度も奏美は反すうした

廊下の途中、小道具たちは所狭しとおかれている

それが秘密の洞窟に隠された宝物のように感じた

どう使うかもわからない大道具たちも自分が迷宮に迷いこんだ気持ちにさせてくれる

独特のホコリの匂いが充満している

そこは自分たちのいる現実世界とは全く違う異世界を感じさせた

 

奏美はその異世界をふわふわした気持ちで進んで行った

もう宏樹の言葉もどこかへ消えて行ってしまった

 

発表会は緞帳(どんちょう:舞台の幕)を落とさない

暗闇の中で舞台の中央、自分のポジションにつく

客席からのざわつきもまるで現実感がない

 

そして、

 

何度も何度も聴いたあの曲の最初の音が耳に飛び込んできた

音楽にまるで体が溶けるような気持ちがした

いや、自分の体の内側から音楽を感じた

そして、唐突にまぶしい光に包まれた

奏美の頭は考える事をその瞬間にやめた

音楽の魔法が導いた舞台と心の共鳴

客席で宏樹は奏美以上に緊張していた

無理もない、病気で体力を落としている、練習も十分でない

本番当日に振りを確認するなど見たこともなかった

それでも奏美の踊りがどうなるのかとても気になった

 

奏美はそんなアクシデントを感じさせない素晴らしいバレエを踊った

もちろん技術的にはまだまだであるが、

観客へ気持ちとエネルギーを伝える何かを宏樹は感じる事が出来た

曲の持つ世界を存分に感じさせてくれる素晴らしいバレエだった

 

こうして奏美は自分の踊るパートをすべてやり切った

宏樹はホッと胸をなでおろした

宏樹は息を吐き、緊張した姿勢を崩して座席に身を沈ませた

 

奏美と一緒に踊った子達はそのまま舞台の横に整列して残っている

次は2人でのエキゾチックな振り付けのバレエが始まった

舞台横には今しがた終えた奏美たちが腰に両手を添えている

みんな息が上がっているのが分かる

奏美の肋骨の上下動も見てとれた

 

呼吸が落ち着いてくると、自分達のパートが終わった安堵の空気が広がっていくのが分かる

少し弛緩した空気だ

しかし、奏美は舞台で踊る2人と気持ちを通わせている

宏樹はどこでその気持ちが奏美から離れるのかが気になって注目していた

しかし、それは最後まで途切れる事は無かった

 

そのまま舞台横の列は膝をつく動きをする

残念ながら全員揃ってるとはいいがたい動きだった

 

次は4人でのアグレッシブなバレエが披露された

その曲でも奏美の気持ちが舞台から離れる事はなかった

4人が踊り終わり、客席に深々と挨拶をして舞台袖へと消えていく

それを待って奏美達たち全員が舞台袖へと消えていった

その最後の最後の瞬間まで、奏美は音楽とともにあった

奏美の紡ぐバレエの世界、宏樹の願い

無事に発表会を終えた奏美が楽屋口から出て来た

今か今かと待ちわびていた宏樹が笑顔で迎えた

「上手だったね。楽しかった?」

それに奏美は少し淋しそうにうなずいた

本番が終わった喜びよりも終わってしまった淋しさの方が上回っているようだ

 

「踊りも良かったけど、横でお姉さんたちの踊りを見てた時が動かなくてビックリしたよ。」

奏美は眉をひそめて宏樹を見上げた

「見てるんじゃないよ!一緒に踊ってるの!」

奏美は颯爽と両手を腰にあててすらりと立った

心でまたあの曲が流れているのを宏樹が感じたのは錯覚だろうか

「ちゃんと踊ってないと音楽が壊れちゃうよ!」

ただ立っているのではない

微動だにしない中ですら音楽と共にある感性を奏美が持っている事に宏樹は驚かされた

 

奏美はいつまでも踊り続けるのだろう

彼女の感じる素晴らしい世界がいつまでも続いて欲しい

宏樹はそう願わずにはいられなかった

バレエは言葉ではない

ただの音楽でもない

思考を伝えるものでもない

真の心の声がそこにあるだけだ

ミハイル・バリシニコフ

 

最後までお読みいただきありがとうございます

こころが変われば世界が変わる

人生のこの瞬間に感謝を

 

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「このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

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