バレエ「マノン」魅力の深淵へ<その1>~若さと情熱の輝き~

バレエ

若さは挑戦するためにあり、

間違いを犯すことは成長の一環である。

ジェイソン・マントゥック

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パリオペラ座バレエ団の2024年公演:チャイコフスキーとマクミランの調べ

出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

2024年2月、パリオペラ座バレエ団の待望の日本公演が開催されました。

素晴らしい舞台芸術の世界がそこにありました。

 

バレエの王道を代表する作品であるチャイコフスキーの『白鳥の湖』

フレンチ・ネオ・クラシックの傑作ケネス・マクミランの『マノン』

私はその『マノン』を観劇させて頂きました。

 

パリオペラ座バレエ団が描く『マノン』は、情熱的で複雑な愛の物語が見事に表現されていました。

舞台美術、衣装、そして優れたダンサーたちの技巧が一体となり、世界最高峰のバレエカンパニーの名に恥じない素晴らしい舞台が繰り広げられました。

今回、私が体験した素晴らしい世界を是非皆様に紹介させて下さい。

『マノン』が描く人間ドラマ:愛と欲望、そして死

父が死に、孤独な境遇に立たされたマノン・レスコー 。

彼女は生活に困窮し、修道院行きを余儀なくされた。

しかし、彼女は都会の魅力の誘惑に溺れてしまった。

最愛の人との愛に満たされる喜びを知った。

その一方で、贅沢と欲望に目がくらみ、両者を手に入れたいという強欲な思いに突き動かされてしまう。

それが死という破滅へと導くことと知らずに。

『マノン』のこのあらすじを聞いて皆さんはどう感じますでしょうか?

あまりに人間臭くてバレエの華やかで幻想的な夢の世界からは程遠いと感じてしまうでしょうか。

 

表層のストーリーだけを追えば確かにそうです。

『マノン』は18世紀に書かれた小説の一節を拾った物語です。

これがオペラからバレエへ、そして現在でもその公演が脈々と続いています。

なぜこの物語が今もなお愛されているのでしょうか?

それをひも解くべく、今回のパリオペラ座バレエ団の『マノン』のストーリーを追う旅に出かけましょう。

 

注意

これから先、バレエ『マノン』のネタバレを含みます。

作品を鑑賞予定、内容を少しでも知りたくない方はそっとページを閉じて下さい。

また、私の鑑賞時の勝手な解釈も多々ある事と思います。

その点もご容赦の上でお楽しみいただけるとうれしいです。

兄エティエンヌ・レスコーの光と闇:歓楽の仮面、家族の面影

昼間はひっそりとした歓楽街。

しかし夜のとばりが下りると様子は一変する。

夜の街は灯りに照らされ、華やかで、それでいて妖しい雰囲気が漂っていた。

 

マノンの兄、エティエンヌ・レスコーはこの歓楽街の顔役として名を馳せていた。

彼は地味な田舎の実家を飛び出し、華やかな世界での生活を重ねていた。

そんな彼の快楽と軽薄な日々に影を落とす出来事が訪れた。

彼の元に父親の死を知る手紙が送り届けられた。

 

陽気で刹那的なエティエンヌの表情は一瞬深く暗く沈んだ。

しかしそれも数瞬の事であった。

彼はまた、いつものようにまばゆいばかりの魅力的な笑顔を振りまいた。

それは掃きだめの歓楽街には似つかわしくない夜空に輝く星のようであった。

ただその光は美しさと共に諸さと儚さを感じさえるのはなぜだろう。

 

彼の手にした手紙には父の死と共にもう一つの重い事実が綴られていた。

 

「あなたの妹マノンは天涯孤独の身となりました。

彼女は修道院に身を寄せることが決まっております。

マノンを修道院まで送り届けていただけると助かります。

どうかよろしくお願いいたします。」

 

父の死、妹マノンの孤独な運命。

エティエンヌは儚い思いに心を揺さぶられた。

歓楽街の夜は更に深まっていった。

暗闇から煌めきへ:兄との再会

父の葬儀が終わり、乗合い馬車で兄のもとへ向かうマノン・レスコー。

生活の手段を持たない彼女には、避けられぬ運命が待ち受けていた。

それは修道院に入り俗世と縁を切り、一生神に祈りを捧げる人生が待っているという事だった。

 

日も暮れゆく頃、馬車は兄のいる町に到着した。

マノンは馬車から降り立った。

目の前には煌びやかな灯りに照らされた歓楽街の入り口が手招きしている。

 

最初はたじろぎと驚きが彼女を包んだ。

が、それも束の間。

マノンは軽やかな足取りで歓楽街へと一歩を繰り出した。

その瞬間、街が彼女を歓迎するかのように音楽が響き渡る。

色とりどりの看板が建物を彩り、派手なドレスの女性たちが通りを歩き、挑発的な仕草で男たちを誘惑していた。

音楽と歓声が交錯し、街全体が賑やかに躍動していた。

 

修道院行きを思うと陰鬱な気持ちだったマノンの表情も、やがて笑顔に変わっていった。

心がドキドキし、高揚感に包まれる。

そして、今来た道を振り返った。

その視線の先に、兄エティエンヌ・レスコーがいた。

 

残されたたった一人の肉親。

マノンは駆けだして兄エティエンヌにしがみつくよう抱き着いた。

知識と誘惑の交わる地

デ・グリューは神学の正義と現実の世界の違いに違和感を感じていた。

人々がなぜ堕落していくのか。

聖騎士であり神学を学ぶ彼には理解できなかった。

と同時に彼らの生き方はデ・グリューの知的好奇心を大いに刺激した。

その疑問が彼を歓楽街の深部へといざなった。

 

そこには老いも若きも、貧者も富豪も、そして男も女も、雑多に合わさり猥雑と享楽の空気に満ち溢れていた。

多くの女たちがデ・グリューの身なりを見極めて声をかけてくる。

いちいち断るのも面倒と想い、彼は手にした本に目を落とした。

都会の誘惑と冷徹な舞台裏

兄エティエンヌ・レスコーとまるで恋人同士のように仲睦まじい様子で歓楽街を散策するマノン。

そんな彼女に馬車で一緒にいた老紳士が声をかけて来た。

都会の喧騒とドキドキの気持ちの中で、たとえ老人でも男性から声をかけられることに嫌な気持ちはしなかった。

繁華街の顔役のエティエンヌは一瞬で相手の意図と財布の具合を見抜いた。

そしてもう一度じっくりと妹マノンを冷めたヘビのような瞳で舐めるように見つめる。

 

出会った瞬間、妹マノンは都会の熱にほだされたあどけない田舎娘としか思ってなかった。

しかし冷静に見極めると、彼女の持つ美しさと男性を引き寄せる魅力の深さにエティエンヌは驚かされた。

老紳士はその間も熱心にマノンを口説いている。

 

冷たい不穏な空気が娼館の前を駆け抜けた。

町を取り仕切るドン『ムッシュGM』が衛兵を伴って現れた。

彼の機嫌を損ねたらこの街では生きていけない。

娼館のマダムは一番人気の娼婦をムッシュGMの元へと送る。

彼女はムッシュGMに深々と貴族の令嬢のような優雅な一礼を施す。

しかし、ムッシュGMはそれが目に入らないかのように無視した。

ムッシュGMが見つめる先には『マノン』がいた。

 

兄エティエンヌ・レスコーは老紳士の懐具合も決して悪くはないと見極めていた。

だがそれ以上にムッシュGMの妹マノンへの興味の方がはるかに価値があった。

もちろんこの様子を娼館のマダムも見逃すはずはない。

何も知らない無垢なマノン

しかし、彼女は彼女が思う以上の美しさと魅力が詰まっていた。

衝撃の出会いと選択:運命の歯車が回りだす

夜も更け、街はかすかな灯りに照らされ、街灯の光が舗道に揺れていた。

マノンの心は修道院への不安と、老紳士の執念深い気持ちに囚われていた。

彼女は複雑な心情で老紳士から手渡された前金のつまった袋を握っていた。

 

「修道院に行かずとも。これも何かの縁。私があなたの面倒を見て差し上げますよ。」

マノンは老紳士の申し出により、街の喧騒が一層切なく感じていた。

 

デ・グリューは老紳士がマノンを自分の愛人にすべく今まさに奔走していることを知っていた。

老紳士は金を手渡し、彼女を自分の元に引き留めようとしていたのだ。

 

都会にあこがれた田舎娘が篭絡されることなど、この繁華街では普通の事だ

デ・グリューは本に目を落としたまま歩きだした。

マノンは都会のまばゆさと修道院への運命の帰路に心を奪われていた。

二人は往来の真ん中でぶつかった。

 

彼女が手にした老紳士から預かった前金が入った袋が地面に落ちる。

二人は同時に手を伸ばす。

そして二人の視線が互いに交差する。

その瞬間、デ・グリューは今まで感じたことのない衝撃が全身を貫いた。

 

マノンは驚いて袋を両手で胸元に持ち、その場から駆け出す。

彼女の胸の鼓動の高鳴りは袋越しでも両の手に伝わってくる。

彼女は立ち止まってもう一度振り返る。

そこには・・・・

まだデ・グリューはその場にいた。

彼の表情には驚きと困惑、そして何より熱い視線をマノンに向けていた。

マノンはその視線を感じて自分の頬が上気して熱くなることが分かった。

そんな自分を恥ずかしいとマノンは感じた。

しかしデ・グリューを見つめる目を背ける事が出来なかった。

 

マノンの運命が夜中に変わることをデ・グリューは察知していた。

彼の心を鷲掴みにした乙女が老紳士の巡らした陰謀の犠牲者になる事を。

 

デ・グリューはマノンの手を取る。

二人は夜の闇へと駆け出し、そして消え去った。

第一章まとめ:若さと情熱の輝き

マノンの手には老紳士から渡された前金が握られています。

それを奪って二人は未知の夜に飛び込みました。

 

過ちを犯した若い二人。

 

しかし夜空を照らす花火のような輝きと美しさ、そして儚さがそこにあります。

情熱に導かれて正しい道を外れる事は孤独と罰におびえるという代償を払う羽目になります。

それでも若い二人は前だけを見つめて突き進みます。

 

ここまでお付き合いくださった皆様はそんな二人に何を感じますか?

私たちは情熱に向かって生きているでしょうか?

社会や家族の期待の期待に縛られず、正しいとされる道を外れる勇気はありますか?

 

情熱に身を委ねた二人を愚かだと思うでしょうか?

同時にその選択がもたらす輝きをうらやましいと感じる自分はいませんか?

 

これが人生の美しさであり、複雑さなのです。

 

若さは挑戦するためにあり、

間違いを犯すことは成長の一環である。

ジェイソン・マントゥック

若い二人は大きな代償を払い、お互いの愛を選びました。

その選択が未来の運命にどうつながっていくのか。

マノン・レスコーの物語の行く末をご期待下さい。

 

最後までお読みいただきありがとうございます

こころが変われば世界が変わる

人生のこの瞬間に感謝を

 

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