楽園は『こころ』の中に~過去と経験が教えてくれた本当の楽園~

旅行

固定観念は幸福の敵である

常識の箱から飛び出し、

自らの翼で舞い上がることで、

初めて本当の幸せが手に入る

ラルフ・ワルド・エマーソン

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注意:本文章中に怪我をするシーンが描かれています。これは作者の完全な創作です。実際のグランピング施設では安全管理を徹底的に行っております。私はそのような事故を目撃した事はありません。その点をご理解の上、本文を読み進める事をお願いいたします。

 

グランピング施設『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス』を舞台の別記事はこちらです

『ゲストのためは自分のためだった!選択の果て、新たな世界の扉を開く』

『こころ』に灯された炎~挫折を乗り越え、家族愛を見つけた新たな光~

グランピングで見つけた、大きな世界と小さな自分~自然と体験がもたらした澪の心の成長~

想像のグランピングとのギャップと戸惑い

春子、彼女の娘かなえ、そして5歳の引っ込み思案な孫裕太郎(ゆうたろう)は、

『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス』を訪れました

 

春子は団塊の世代として育ち、

夫は有名な機械メーカーの役員にまで上り詰めました

彼女は幸せな結婚生活を送り、アジアの国々での海外赴任も経験してきました

春子は各国で令夫人として扱われ、高級な世界に身を置くことができました

 

しかし、『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス』は、彼女たちの予想を裏切るものでした

 

廃校となった小学校を利用した施設は、

春子が好んだアジアリゾートの高級グランピングとは全く異なるものでした

温泉もプールもありません

なにより、清潔で快適な自然体験をホテルスタッフが、

手取り足取り楽しませてくれるものでもありません

 

春子とかなえは大いなる失望を感じました

しかし、そこでの体験で春子は忘れていた子供時代の自分と出会うことになります

 

そして、そこで予期せぬ事件が起こってしまいます

その事件が、春子、かなえ、裕太郎に何をもたらすのか?

春子は、この楽園に何を見出すのでしょうか?

 

現代社会では快適で清潔な環境や個人の幸せ追求が重視されます

我々は彼らの経験から何かを学び取ることができることでしょう

3人の人生を変える体験を、ぜひ最後までお楽しみください

グランピングへの期待と現実のギャップ

春子は娘のかなえが運転する車の後部座席で、5歳の孫裕太郎の膝枕をしていた

ゴールデンウィークだったが、アクアラインの混雑をのぞけば、予想よりも快適なドライブだった

彼らの目的地は『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス』

ホームページではグランピングを楽しめる宿泊施設と謳われていた

 

春子の夫はかつて有名な機械メーカーの役員まで昇進し、

アジアを中心に海外赴任の生活を長く送った経験がある

当時の赴任先では、日本では想像もできないような豪邸に住んでいた

春子は贅沢な時間を高級ホテルのプールやテニスコートで過ごした

 

アジアでの休暇の楽しみは高級リゾートでの滞在だけだった

時には水上コテージや自然体験が加わった宿泊施設を利用した

その中には「リゾートグランピング」も含まれていた

広大なホテルの敷地内で景色の良い小高い丘の上にホテルスタッフがテントを設置

快適な空調、美味しいBBQ、冷えたお酒や飲み物が提供された

それ以外に必要なものは頼めばすぐにホテルからジープで運んでくれた

頼めばホテルのプールへの送迎も自由に利用することまでできた

当時のかなえはホテル間の荒い運転を楽しむために何度もジープの送迎を頼んだ

 

春子にとって、日本でのグランピングは初めての経験である

当時の思い出を蘇らせ、動きやすい花柄のワンピースとサンダル、つば広の白い帽子を準備した

 

目的地を直前に車は細い道に入った

入っていく先には、学校のような校舎が見えた

車はゆっくりと敷地内に侵入していく

どうやらここは廃校となった小学校が宿泊施設に改装された場所のようだ

広々とした校庭にはテントが並んでおり、

春子とかなえの知る楽園とはまるで違った雰囲気が漂っていた

 

孫の裕太郎は目を輝かせながら外を眺めていた

一方の春子とかなえは、失望の色を隠せないでいた

春子と光一の出会いと交流

春子は車内でくたびれた体を伸ばし、広場のベンチに座った

5月の日差しが強かったので、つば広の帽子が役立った

 

恥ずかしがり屋の裕太郎はかなえの手を握りしめて離さない

広場の中央にあるトランポリンではたくさんの子供たちが跳び跳ねている

裕太郎は興味津々の様子だったが、かなえが引っ張ろうとすると逆に抵抗し、トランポリンから離れた

裕太郎はかなえの手を引いてヤギ小屋に向かっていった

春子は木製のベンチに座りながら広場を見渡していた

 

すると、30代後半の男性スタッフ、社長の光一が春子の横にやってきた

「こんにちは!暑くなりましたね!」

「そうね、こう暑いと冷たい飲み物が欲しくなるわね。」

「お水でもお持ちしましょうか?」

春子はかつての高級リゾートグランピングでの飲み物を思い出した

「そうね。こんな時は、白ワインを炭酸水で割ったものがとてもおいしいわね。」

光一は興味深々に話を聞いている

「そうなんですか!確かにのどの渇きを考えるとソーダで割ると良さそうですね!」

「ええ、それに砂糖たっぷりにレモンとライムを絞るとこんな日にはとても美味しいわよ。」

春子は少し意地が悪かったかと反省した

光一は意に介さない

「ほー、確かにおいしそうですね。シロップじゃなくて砂糖なんですか?」

「そうよ、溶け残った砂糖をストローを通して口に入るのがまたいいのよ。」

光一は真剣に聞いていた

「大変興味深いお話、ありがとうございます!ご滞在を心行くまでお楽しみください!」

光一は丁寧にあいさつをし、クラブハウスに戻っていった

別の男性スタッフが紙コップに入った冷たい水を春子に運んできた

 

春子はのどを潤し、裕太郎とかなえを探した

裕太郎は元気に青々とした草をヤギに与えている姿が見えた

自発的に動く裕太郎を見て、春子はうれしい気持ちになった

広場で子供たちの歓声が響いてくる中、ゆったりした時間が過ぎていった

キャンバスに広がる幸せな偶然

P&Fパラダイスでは複数のアクティビティが同時進行で行われていた

裕太郎は絵を描くことが好きで、

『ボーリングアート体験』というアクティビティを選んだ

これは春子とかなえにとっても初めて聞く言葉だった

『ボーリングアート』は絵具がキャンバス上で流れ、

絵具の偶然の交じり合いから絵画を生み出す手法のようだった

春子とかなえは『絵とはデッサンなどで目に映る世界を描くもの』

そんな先入観を持っていた

 

裕太郎は見本の青いマーブル柄のキャンバスに興味津々だった

スタッフのお姉さんは好きな3色を選ぶように言った

裕太郎はアクリル絵の具をいくつも手に取ってどれにしようか楽しそうに選んでいる

 

「お母さまもやってみてください。」

かなえが提案した

 

春子はさっき出会った光一の興味深々な目を思い出した

あの好奇心に背中を押されるように、

春子も裕太郎と同じ手順で絵具を用意した

 

1人に2つの小さなキャンバスが用意されていた

3色の絵具を1つのコップに流し込むと、

ドロドロの絵具は急には混ざらない

絵具は3層の液体に見えた

 

春子は慎重に少量の絵具をゆっくりとキャンバスに垂らした

――――少なかったわね

キャンバス上で広げようとしても絵具が足りなかった

ただし、その色合いは美しく見えた

 

もう1つのキャンバスに裕太郎が先に取り掛かった

彼は残った絵具をすべてキャンバスに流した

もちろん、絵具は盛大にこぼれていった

だが、色のグラデーションはとても美しかった

 

春子は裕太郎に倣って残りの絵具を一度にキャンバスに流した

絵具はマーブル状に美しく広がっていった

最後に数滴の絵具が点として落ちた

それがとても目立っていた

裕太郎も興味津々でその点に注目した

 

「あ!点が仲良しみたい!」と裕太郎が言った

 

春子とかなえもキャンバスを覗き込んだ

美しい波模様の中で目立つ3つの点がよりそっているように感じた

3人はとても幸せな気持ちに包まれた

今も昔も変わらない子供たちの心

春子の知っている高級グランピングは自然を独り占めして、

プライベート感を満喫するものであった

しかし、P&Fパラダイスは違った

アクティビティ通してスタッフもゲストもみんなが一体感を持っていた

あの引っ込み思案の裕太郎がスタッフのお兄さんの先導のもと、

初対面の子供たちと笑顔で駆け回っている

子供たちの年齢もまちまちだ

 

春子は遠い子供時代に遊んだ頃を思い出していた

 

――――あの頃は何も無かった

――――遊び道具は自然だったわ

 

春子は胸いっぱいに空気を吸ってみた

自分の体と心が軽くなる気がした

 

次のアクティビティは楽器の『カリンバ作り』だった

3人はそんな楽器はもちろん知らない

アフリカの楽器で両手で収まる中空の木の箱に金属のピンが取り付けられている

その金属のピンをはじくと箱で音が増幅されて響くという楽器だった

 

3人は組み立てキットが用意されていると思った

そこに用意されていたのは、

『木材とのこぎり』だった

もう3人は驚かなかった

P&Fパラダイスはそういった施設とすでに納得していた

 

かなえと裕太郎が鉛筆で木材に線を引き、それに合わせてのこぎりで切り落とそうとした

しかし、上手く出来ない

春子ものこぎりは扱ったことはない

だが、大工さんがのこぎりやかんなを扱っているのを子供時代に見た記憶をたどった

 

「ちがうわよ!まず、鉛筆の線に沿って薄くのこぎりで削るの。

その溝に沿って切ればまっすぐ切れるわよ。」

 

そう言って、春子はいてもたってもいられなくなってのこぎりを手に取った

鉛筆に溝を掘ってそれに沿ってのこぎりを前後させる。

「ぼくがやりたい!」

春子がのこぎりを前後しているところに裕太郎が手を出した

 

「あっ!」

 

裕太郎の小指側の手の甲が木材とのこぎりの間に挟まれた

鮮血が散った

裕太郎は騒がずに逆に静かになっている

 

「きゃー!」

 

代わりにかなえが悲鳴を上げた

参加者全員がこちらに注目する

裕太郎は血が出た傷をこすろうとしている

春子はこすろうとするその手を制した。

「触っちゃダメ!」

血が流れる裕太郎の甲を押さえる布を探した。

とっさに自分の花柄のワンピースの裾で押さえた

「消毒すればいいの?」

かなえが消毒液の入ったスプレーを出す

「ちがうわ。最初は流水で洗うの。木くずが残ったら大変だから。消毒はその後よ。」

光一がその場に現れた。

手には水で絞った清潔なタオルを持っている

それを見て春子は安心した

ワンピースのすそとタオルと交換した

部屋の外の洗面所に行って傷を水で洗い流す

「いたっ!」

裕太郎はしかめっ面をして声が出てしまった

しかしその後は歯を食いしばって耐えていた

 

傷口をキレイにして医務室への移動した

出血はもう止まっていた

瞬間的に細い動脈をとらえたために派手に出血したのかもしれない

消毒して、抗生剤の軟膏を塗ってキズテープを張って応急処置は終わった

裕太郎が無事と安心したら、かなえは不安が光一への怒りと変わっていくのを春子は感じた

春子はかなえの肩に手をかけた

「たいしたことなくてよかったわね。病院に行く必要もなさそうだし。」

それでもかなえは何か一言いいたそうなそぶりであった

 

その時である、

 

――――ガラ!

 

医務室の扉が開けられた

一緒に楽器作りをしていた子供たちが裕太郎の元にやって来たのだ

1人の子の手には外で摘んだであろう花が握られていた

「大丈夫・・・・・」

心配そうに女の子が聞いた

 

「もちろん!大丈夫だよ!」

 

裕太郎はケガをした右手を挙げて握ったり開いたりして元気に答えた

その声を聞いて子供たちの間に安堵の空気が流れた

かなえも子供たちの雰囲気に呑まれたのか、怒りの雰囲気は雲散霧消していた

 

「お兄さん!ぼく!続きを作りたい!出来ますか?」

 

裕太郎は光一に聞いた

光一は春子とかなえの顔を見る

二人が納得するかどうかを見極めていた

その沈黙を子供たちが壊した

 

「教えるお兄さんがいないなら、ぼくが教えてあげるよ!だから大丈夫だよ!」

 

他の子供たちも一斉に手を挙げて応える

春子はもう一度かなえの肩に手を置いた

かなえは春子と目を合わせた

かなえは光一の目を見て小さく頷いた

 

「わかった!裕太郎くん!じゃあ後で時間取るからお兄さんと一緒に続きをしよう!」

 

裕太郎だけでなく、他の子供たちも我が事のように大喜びの歓声を上げた

 

光一は春子のそばに来て深く一礼した

「お洋服汚れてしまいましたね。申し訳ありません。それに、適切な処置に驚かされました。ありがとうございます。」

「何言ってるの。私の子供のころは鉛筆だってみんな小刀で削っていたのよ。手ぐらい切るのは日常茶飯事よ。」

春子はこの一日、気持ちが子供時代にタイムスリップしていた

気持ちも体も若返った自分に驚いていた

そして、都会で見る裕太郎とここでの裕太郎はまるで別人であった

 

――――今の子供たちは昔とは違う

 

裕太郎と過ごす都会での日々でそう思っていた

しかし、このP&Fパラダイスでの体験で春子は多くの新しい発見でそれが間違っていたことが分かった

 

光一は最後にウインクしながら春子にこう告げた

「奥様、今日のディナーでのお飲み物は、ぜひ楽しみにしていてください。」

「ええ、楽しみにしてますわね。」

 

まだまだ驚きの体験は残されていそうだ

春子のワクワクした時間はまだまだ終わりそうにない

固定観念は幸福の敵である

常識の箱から飛び出し、

自らの翼で舞い上がることで、

初めて本当の幸せが手に入る

ラルフ・ワルド・エマーソン

ランキング参加してます。クリックしていただけると励みになります

「このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

特に、ケガの描写については作者の創作です。

本文とグランピング体験で実際にあったことではない事を明記させていただきます。

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