ゲストのためは自分のためだった!選択の果て、新たな世界の扉を開く 

旅行

あなたが感じること、

あなたが考えること、

そしてあなたがやりたいことを追求することは、

あなたが真の幸福を見つけることにつながるでしょう

スティーブ・ジョブズ

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グランピング施設『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス』を舞台の別記事はこちらです

『こころに灯された炎~挫折を乗り越え、家族愛を見つけた新たな光~』

『グランピングで見つけた、大きな世界と小さな自分~自然と体験がもたらした、澪の心の成長~』

『好き』を仕事にした結果

さやかは夢を叶えることが出来ました

旅行が好き、子供が好き

そんな彼女がスタッフとして働くグランピング施設

『遊びと自由の楽園P&Fパラダイス

さやかにとって理想の職場でした

 

ゲストをもてなして最高の喜びを体験してもらう

そのためにさやかは心血を注いでいた

しかし、すべてのお客様に最高の体験をと思ってもそれが上手くいかない事も

 

そんな時、社長の光一の一言で仕事への考え方が少しずつ変わっていきます

ある日、どうしてもこれは無理だという場面にさやかは遭遇します

その時、さやかの決断は?

その決断はゲストに、そしてさやか自身に何を生み出すのか?

その結末をぜひ皆さん御覧下さい

笑顔の裏の疲れた心

子供を中心に体験型アクティビティを提供するグランピング施設遊びと自由の楽園P&Fパラダイス

さやかはこの施設のスタッフとして働いて半年の月日がたった

学生時代は休みがあればレジャー施設や国内の旅行を楽しむアウトドア派

また、子供好きも相まって、自分の趣味と実益が合致した素晴らしい職場を得たと思った

 

ゴールデンウイーク中、P&Fパラダイスはテントもコテージも満室が続いている

多くのファミリーが宿泊とアクティビティを楽しんでいる

さやかは、繁忙期を冬休みや春休みシーズンで体験済みである

でもその時はまだ新人な事もあり、先輩のサポートが中心であった

最近やっとアクティビティリーダーを任せられるようになり、

お客様を楽しませる難しさを感じ始めていた

 

GWも中盤を過ぎてさやかは疲労の蓄積を感じ始めていた

繁忙期のためにP&Fパラダイスは送迎用の大型バスを借りていた

駅から送迎でゲストが到着する

元気に子供たちがバスから飛び出してくる

さやかは笑顔で大きく手を振ってみんなを迎え入れた

しかし、その笑顔が心からのものでない事はさやか自身良く分かっていた

 

ゲストを迎えての合同説明会が始まった

初めてのお客様も何度もリピートしている子供たちもいる

勝手がわかっている子供たちはフィールドのトランポリンへ一目散に向かっていく

親御さんはその様子を見て、説明会に残るべきか子供を追いかけるべきか戸惑っている

さやかがその様子を見ていると、先輩スタッフが親御さんに笑顔で手を振って走って来た

 

「こんにちは!お子さん元気ですね!

私が見てますから、お母さま方はクラブハウスでお茶を飲んでいて下さい。

もしお子様が、トランポリンから離れる時は一度お母さんのところに連れてきますから!」

 

そう伝えると親御さんたちは安堵の表情を浮かべた

先輩はインカムで状況を連絡係に伝える

そして走ってトランポリンに向かっていった

去り際に先輩は笑顔でさやかに手を振った

さやかはそれに応える事が出来なかった

 

説明会は終わりに向かっていた

ゲストが全員クラブハウスの外に出た

今日は光一(こういち)社長がシメの挨拶を担当していた

 

皆さん!今日一日!このP&Fパラダイスで一生忘れられない最高の日にしましょう!

せーの!エイエイオーーーーー!

お客さんとスタッフが拳を空に向かって高々と掲げた

さやかは入社した当初と今では、違った気持ちで拳を掲げている

それは疲れてるせいだと自分に言い聞かせた

『体験』か『ゲストニーズ』かの価値観の違い

滞在中のアクティビティはすべて料金に含まれている

それが理由なのか、ゲストは一分一秒を惜しんでスケジュールをタイトに組み上げる

スタッフは必死にそれに応えなければならない

アクティビティを楽しんでもらいながら、ゲストの次のスケジュールに間に合わせる事もとても大切だ


さやかはこの日、『タケノコ掘り体験』のリーダーを任された

5月はもうタケノコのシーズンも終盤

さらにP&Fパラダイスの借りている竹林は毎日掘り返しているので見つけにくい状況だ

いつものようにタケノコの簡単な説明を、参加するゲストにクイズ形式で説明する

そして、ゲストを3組のチームに分ける

タケノコを見つけたらチーム全員で掘るという方法を選んでいる


全員が竹林でタケノコ探しを始める

早速に地面からほんの少し頭を出しているタケノコを見つけた

チームのみんなが集まってまずは子供たちが一生懸命に掘る

見物していたお父さんが参戦

一気に全員の結束が強くなる

お父さんが頑張りながらチームの子供たちに指示を出す

「子供たちは別のタケノコを探してこい!」

仕事を与えられた子供が一斉にまた竹林に散っていく

子供も親も目がキラキラしている

 

この日はどうやら2チームがタケノコを見つけて終わりそうだ

ところが、アクティビティ終了時間直前で最後のチームがタケノコを見つけた

他のチームが見つけた後とあって、どうしても掘りたいようだ

でも掘り出す時間はなさそうだ

インカムで状況を説明し、本部の指示を待つ

本部から応援で光一社長がやってきた

全員の様子を見渡す

「もうお食事の時間が迫ってます。

残りたい方は残って、他の皆さんはクラブハウスに戻りましょう!」


チームの数人を残して全体が帰路につくかと思われた

しかし、子供たちが全員その場に残った

親御さんが子供に帰るように促す

しかし、タケノコの行方が気になって仕方がないようだ

さやかはゲスト到着時のトランポリンでの出来事を思い出した

さやかが親御さんに説明しようとしたその時、光一が制した

結局掘り出すための時間で、大きくずれ込むことになってしまった

 

P&Fパラダイスまでの帰路の間、

掘り出されたタケノコは子供たちの手から手に渡っていた

光一はとても満足そうにその様子を見ていた

『人生の初めて』に出会えた時の感動を

次の日の朝を迎えた

さやかは泥のように眠ったが疲れは取れない

 

朝食のビュッフェは混みあっていた

なぜか食堂の食器の一部は陶器の皿が使われていた

小さい子供が扱っている時に落とすと割れてしまう事もある

今日も皿の割れる音がビュッフェ会場のクラブハウスに響いた

近くのスタッフが子供に怪我がなかったかを確認して手早く片付ける

子供がすまなそうにもじもじして

「ごめんなさい・・・」

そう謝った

先輩は頭を軽くポンポンとたたくと笑顔で親指を上げて子供に向ける

子供もそれに返すように笑顔で親指を上げた

 

ビュッフェ会場で先輩がさやかの腕を引いた

「そろそろヤギ小屋のヤギを出す時間だ。さやか行けるか?」

この喧騒から離れられるならむしろうれしかった

さやかはため息をつきながらヤギ小屋に向かった

すると、小屋の周りにすでにたくさんの子供たちがいた

 

3頭のヤギはすでに小屋から出されただけでなく、柵の外にすら出されていた

ヤギ達は犬の首輪とリードがつけられて子供たちが引っ張っていた

その中心には、光一社長がいた

朝のアクティビティにヤギの散歩はなかった

でもそれを知っているゲストの子供がいて、スタッフにお願いをしたのが理由のようだ

ヤギたちも青々とした草が食べれるのでとても元気だ

子供たちはリードを引っ張っているが、もちろんヤギの力に勝てるわけもない

どちらが散歩をさせられてるのか

 

そんな時、10歳前後の女の子がヤギを引き連れて光一社長のところに来た

少し不安そうな顔をして光一に話しかけた

「お兄さん・・・どこまで散歩していいんですか?」

光一社長はしゃがんでその子と目線合わせると、

 

「どこでも好きな所に行っていいよ!なんでもしていいから!」

 

女の子の表情がパッと明るくなった

しかし、ヤギが女の子の力で動くわけもない

リードを引っ張って悪戦苦闘している

さやかはそれを手伝ってあげようとリードを引こうとした

しかし、光一社長はそれを止めた

 

そうして昼前のアクティビティの時間が迫ってきた

子供たちはヤギの散歩をギリギリまでやりたがっている

 

「じゃあクラブハウスまでヤギくんたちにお見送りしてもらおう!

リード引っ張る子とおしりを押す子で分かれて!」

 

おしりを押す子が協力するとウソみたいにヤギは簡単に動いた

さやかはクラブハウスまでのヤギの散歩は見たことがなかった

以前はそんなイベントもあったのかと考えていた

だが、ヤギの足がだんだんと重くなる

すると光一社長が、

「小屋から離れたことないからさすがにヤギも驚いてるか。」

さやかは耳を疑った

クラブハウスまでの散歩は実は今日が初めてだったのだ

 

全員がクラブハウスまで到着した

子供たちがヤギたちに別れの挨拶をしてクラブハウスにかけていく

光一とさやかは手を振って子供たちと別れた

 

2人はヤギを小屋へゆっくりと連れかえった

帰りは小屋に戻りたいのか、ヤギたちの歩みはとても速かった

 

「さやか、この仕事面白いか?」

唐突に光一が聞いた

さやかは即座に答える事が出来なかった

 

「俺はバックパック一つで世界中を旅したよ。

何でそんな不自由な旅をすると思う?

そこには人生で初めてが満ちているんだよ。

その感動をゲストに感じて欲しいんだ。」

 

光一は歩きながらさやかの顔を見る

 

「もちろんゲストだけじゃない。

スタッフ全員にも感じて欲しいだ。

『人生の初めて』に出会えた時の感動を!」

決断と責任 『人生で一番』と言われて

さやかの次の担当はソーセージ作りのリーダーだった

連泊をしているゲストのお昼ご飯を自分たちで作るアクティビティである

ソーセージ作り体験と実食である

ひき肉に自分たちでハーブを選んで配合して、羊の腸に自分たちで詰めて作る

 

7組の予定が急遽朝に8組に変更となっていた

材料は7組分しかない、ひき肉を解凍する時間はもうない

今から用意してはとても間に合わない

それに焦っていたら、 先輩が声をかけてくれた

「追加の一組はお友達がいるからみたいだよ。」

さやかはほっとした

ソーセージ作りは5人家族で食べても半分は残ってお持ち帰りになっている

お友達同士なら一緒に作って食べれば素敵な体験になると思った

 

クラブハウスには全員がそろっていた

各テーブルにコンロも材料もすべてそろっていた

テーブルを渡り歩きながらソーセージのお話をクイズ形式で行う

全員が興味を持って楽しそうに聞いている

2家族一緒のテーブルの前にやってきた

すると女の子が、

「お姉さん!さちちゃんの材料が無いよ!」

さやかはニッコリ笑って、

「さちちゃんとは一緒に作ってね。おいしいソーセージが出来るよ!」

女の子は二人で顔を見合わせて笑顔だ

良かった、二人とも楽しそうだ

 

「ではハーブを配合します。手元の空の金属の器を持って前に来てください。」

すると子供たちが器を持ってハーブのガラスケースの前に集まった。

すると先ほどの子が器を指さしながらまたさやかに話しかける。

「さちちゃんのこれ無いよ。作れないよ。」

手に何も持ってないさちちゃんという女の子は両手をもじもじさせている

みんなが持ってるのに自分が無いのが悲しそうにも見える

確かにハーブを配合することでどの家庭もオリジナルのソーセージになる

その意味と価値をさやかは見誤っていた

 

さやかはインカムで状況を説明して指示を仰ぐ

声の先の先輩も言葉を失っている

どう頑張っても材料が出てくるわけではない

 

「さやか聞こえるか。」

光一社長が変わった

「これはお前にまかせる。

ゲストからの急な変更だ。

お詫びすれば十分通る話だ。

どうする!」

 

さやかは詰め寄る女の子とお友達のさちちゃんの顔を同時に見る

二人とも不安そうに見上げている

 

さやかは二人を見つめながらインカムを口元に運ぶ

「ひき肉をチンして半解凍でミンサーにもう一回通す事出来ますか?」

「出来る。時間は10分もあれば。」

「その間に他の道具も用意できますか?」

「コンロが足りない。2家族分同時に煮込むことになる。」

「いけますか?」

「いける!」

「じゃあお願いします。」

 

さやかは大きく息を吸った

不安そうな2人を笑顔で見る

 

「OK!今からさちちゃんも作ろう!」

 

二人はパッと明るい笑顔を見せて手を取り合って本当に喜んでいた

 

8組の家族たちは思い思いでソーセージ作りを楽しんでいた

もちろん初めての事だ、太いソーセージ、細いソーセージ、皮が破れて身が飛び出したソーセージまである

でも、どの家族もとても楽しそうだ

最後は鍋に入れて沸騰寸前のお湯で40分ほど煮込む

子供たちは鍋にソーセージが投入されるのを見届けるとフィールドに飛び出ていった

待ち時間も遊ばないともったいないのだろう

 

さやかは鍋の温度管理をしながら、誰もいなくなったクラブハウスのテーブルの清掃を始めた

落ち着く時間が出来た時、さやかは自分の気持ちが晴れやかな事に驚いた

 

自分で決断してその決断に責任を持つ

 

彼女にとって仕事では生まれて初めての経験だった

自分の手のひらを見つめると胸が熱くなる思いがした

 

しっかりとソーセージは煮込まれて出来上がった

仕上げに焼き色を付けてパンに野菜と一緒にはさめば出来上がりだ

ゲスト家族が鍋のお湯を全部捨てて強火のコンロで鍋の中で転がす

肉の脂がしみだして、それが皮を焦がしてとても良い匂いが周囲に広がる

破れ出たお肉が炒められたのもそれはそれでとてもおいしそうだ

 

すべての家族のソーセージが完成した

全員が木陰でピクニックのようにソーセージを頬張っている

「おいしい!」

予想を上回るおいしさにゲストがビックリしている

さちちゃん家族もおいしそうに食べている

 

さちちゃんがさやかに気づいて食べかけのソーセージを挟んだパンを持ってやって来た

 

「お姉さん!すっごくおいしいよ! 今まで食べた中で一番おいしいソーセージだよ!」

 

『人生で一番』

 

この言葉がさやかの心を貫いた

 

もしあそこで断っていたら、彼女はこの経験が出来なかった

自分の選択は間違ってなかった

そう思った時、さやかの視界が大きく滲んだ

そして涙が溢れ出ていた

涙が止まらない

 

「お姉さん・・・・?

どこか痛いの・・・・?」

 

さやかは泣きながら笑顔で首を振った

 

「うううん・・・・

目にゴミが入っただけ・・・・

心配してくれてありがとう!」

 

さやかは泣き顔のまま大きな笑顔を返した

さわやかな5月の風と日差しは本当に優しかった

あなたが感じること、

あなたが考えること、

そしてあなたがやりたいことを追求することは、

あなたが真の幸福を見つけることにつながるでしょう

スティーブ・ジョブズ

 

最後までお読みいただきありがとうございます

こころが変われば世界が変わる

人生のこの瞬間に感謝を

 

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「このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

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