架空のメンターが導いた『乾いた成功者』の軌跡:欲と感情からの脱却

ビジネス

自身の豊かさを共有することではなく、

メンターが求める人にできる最大の善は、

彼に彼自身を明らかにすることである

ブライアン・マクローリン

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自分が本当に望む生き方とは

竜崎拓海(りゅうざきたくみ)は、幼少期の経験から他人を支配し、ねじ伏せる事を求めていた

そんな乾いた『こころ』を自分で立て直す事はとても難しいです

ライバルの宮本美咲(みやもとみさき)はそれを見抜いていました

 

彼は自分と接点の全くない大門(だいもん)との邂逅を果たし、

大門を架空の『こころのメンター(師匠)』に仕立て上げました

竜崎は、彼の教えを受けてどうなるのか?

 

自分が変わることはとても勇気がいる事

竜崎が自身の作り出したメンターで成長していく姿を御覧ください

勝ち組の限界 欲望の果てに待つもの

30歳の竜崎拓海は勝ち組の階段を駆け上がった

幼少期には貧乏で、クラスメイトの金持ちの子供たちをうらやましく思いながら過ごしていた

しかし、その気持ちを励みに努力を重ね、時流と運に乗って成功者となった

彼は巨万の富を手に入れ、自分の欲と感情に身を任せるようになった

 

タワーマンションに住み、

高級外車を駆り、

ブランドファッションに身を包み、

美術品も多数所蔵した

 

彼は昼夜を問わず仕事に没頭し、寝る間も惜しんだ

それもお金のためではなく、お金持ち仲間からの嫉妬や羨望を得るためだった

 

竜崎はその成功に満足し、自分の優越感を味わっていたが、絶対に負けたくない相手がいた

同じタワーマンションに住み、同じビルにオフィスを構える『宮本美咲』(みやもとみさき)だ

彼女は同い年で、自信家でプライドが高く、仕事に対する情熱も人一倍だった

竜崎は彼女の屈服した姿を見たかった

その理由は、彼女の生い立ちにあった

彼女は裕福な家庭で育ち、エリートコースを進んできた

彼女の人生は常に勝ち組だった。そして、彼女は竜崎を踏みつけていた人間と重なっていた

竜崎は、仕事でも遊びでも、所蔵するコレクションでも、彼女を悔しがらせることができなかった

 

あるカクテルパーティーで二人は偶然出会った

竜崎は、一瞬でもいいから彼女の悔しそうな様子を見たかったと思い、会話を続けたが、彼女は意に介さなかった

最後に、美咲は人差し指で竜崎の胸を押してこう言った

「あなたはスゴイわ。でも、一つだけ足りないものがあるわね。」

竜崎は、生まれと育ちだろうと思ったが、

「メンターよ。あなたに生き方を教えてくれる人よ。」

カウンセラーが必要ってか!

その余裕ぶっこいた顔、いつかぶっ潰してやる

竜崎の闘志は燃え上がった

竜崎の右手、失われた目的

週末の金曜日、竜崎が仕事を終えたのは、もう土曜の朝を迎えていた

しかし、今日の案件は竜崎の予想を超える成果を上げたため、彼は上機嫌だった

ガラス窓を大きく取った彼のオフィスから下を見下ろすと、

都心のオアシスのような大きな美しい公園が眼下に広がっていた

すると、公園の植え込み付近で10人程度がゴミ拾いをおこなっていた

彼らは週末の清掃ボランティアだった

 

竜崎は今日の仕事の出来に満足していた

彼らにもその喜びを分け与えたいと思った

そこで、竜崎は地下駐車場に直行せずにビルの外に出て、ボランティアの元に行った

 

「いつもご苦労さん。責任者に会えるかな?」

竜崎は上機嫌だが上から目線の言葉を投げかけた

ボランティアの一人が彼を案内した

竜崎の向かった先には、屈強なアメフトの選手のような男がいた

竜崎に気づいて振り返ると、強面の男だったが、

竜崎を認めるとまるで幼い子供のような笑顔で迎えた

 

竜崎は、ガラス張りの豪華な自分のオフィスビルを親指を突き上げて指し示した

 

「いつも、掃除ご苦労さん。きれいにしてもらってうれしいよ。

これはそのお礼ね。みんなでおいしい物でも食べてよ。」

 

そう言って無造作にポケットからマネークリップを取り出し、そこから3万円ほどを抜き出し、男の前に突き出した

竜崎は相手が体を縮めてペコペコ頭を下げながら受け取る様子を想像した

そんな優しい自分に酔ってご満悦だ

しかし、男は笑顔のまま無言で右手のひらを竜崎に向けて拒絶する

竜崎は想像とは違った展開に頭がパニックを起こす

無理やりにでも渡そうと竜崎はその手に金を握らせようとする

すると男は厳しい表情に変わって竜崎を圧倒する

その様子に竜崎がひるんだ

その時、

「大門さん!」

男が他のボランティアに呼ばれる

屈強な男、大門は仲間に呼ばれると竜崎をその場に放置したまま走ってその場に向かった

そこには、金曜の夜に泥酔してしまったのだろうか、

汚い身なりの浮浪者が足元がおぼつかない様子でいた

大門はその男に肩を貸すとそのままその場を去っていった

3万円を握った竜崎の右手は目的を失ってそのまま放置された

窓越しに現れた大門 触発された決意

「なんだ!むかつくな!」

竜崎は叫び、高級外車はいつもよりも爆音を轟かせて帰路についた

ビジネスが好調にまとまった多幸感は、先の事件で消え去ってしまった

大門が浮浪者に肩を貸している様子が竜崎の頭に浮かんだ

「負け組どうしが傷をなめ合って!なさけねー!」

車は滑るように自宅のタワーマンションの地下駐車場に滑り込んだ

 

部屋に戻ると、竜崎はイタリア本国から取り寄せたオーダーメイドのソファに体を沈めた

いつもならさっさと気持ちが切り替わるところだが、

今日はあの大門の姿が頭から離れなかった

空虚に外を見つめていた

 

すると、突然、窓ガラスにあの大門の姿が映った

 

錯覚かと思い目を凝らしたが、やはり大門はこちらを無言で見ていた

厳しい視線だが、そこには優しさも見えた

あの浮浪者を抱えた時はこんな目をしていたのだろうか

竜崎は無言で大門と見つめ合った

 

なぜ自分の好意を断ったのかを大門に問いかけた

だが答えは返ってこない

竜崎は大門の気持ちを本気で知りたくなった

自分が同じことをしたら、彼の気持ちがわかるのだろうか?

そう思ったら、大門の顔が穏やかになったように感じた

「よし、俺もあのボランティアに参加するぞ!」

竜崎は声に出して言った

ガラスに映る大門は、あどけない笑顔を竜崎に向けてくれた

臭い作業着、まずい飯 でも心は晴れやかに…

土曜日の朝、公園にはボランティアが集合していた

その輪の中に明らかに高級な服で場違いな男がそこにいた

竜崎だ

ボランティアのリーダーらしき男が説明を始める

大門はこの日は参加していない

 

竜崎は説明を聞いてゴミ拾い、芝刈り、木の剪定を手伝う準備をする

「おいおい、その服じゃだめだ。作業着のオーバーホールに着替えろ!」

言われるままに渡されたオーバーホールを手にとる

 

く、くっさーーーー!

 

とんでもなく臭かった

「自分は大丈夫です。自分の服でやります。」

「何言ってんだ!ケガしたらどうする。靴と手袋も忘れるな!」

信じられないぐらい汚い

ヌメリもある

これを身に着けて作業をするのか!

竜崎は卒倒しそうになった

 

全員が私語もなくてきぱきと作業をしていく

竜崎も最初は服装が気になっていたが、集中力は人一倍だ

作業の進捗の遅い部署を見つけてはヘルプをする

初めてとは思えないぐらい効率的に仕事をする様子にボランティアの面々も驚いている

こうしてこの日のボランティア作業の終了を告げるチャイムの音が公園に響き渡った

 

メンバーがみんな竜崎の元に集まってくる

みんな別の作業をしていたはずなのに、竜崎の頑張りを見てくれていたのだ

全員が竜崎を褒め、彼に興味を持っていた

 

竜崎はふと誰もいないはずの自分の右隣に人の気配がした。

そこには大門が立っていた

もちろん本物ではない

彼は竜崎と目が合うと大きくうなずいた

 

「さ、最後は差し入れ食べて行ってくれ!」

ペラペラのプラスチック容器と木のスプーンが渡された

蓋を開けると中には原形を失った豆のスープが入っていた

温度は常温、味もひどい

これでもかという臭い作業着に身を包んで信じられないほどまずい飯を食っている

なのに、心はなぜか晴れやかだった

その理由を竜崎は一生懸命考えた

 

大門がまた隣に座っていた

彼は何も言わない

大門はボランティア全員を見渡している

竜崎も同じようにスープを食べているボランティアの面々を見渡す

すがすがしい風が『こころ』を優しく通り過ぎた。

過去との決別 本当の自分を見つける

次の週末、美咲からオフィスで起業4周年パーティーの誘いを受けた

しかし、竜崎はパーティー翌日のボランティアが気になる

竜崎は丁重に参加を断った

 

金曜に仕事を終えると夕方に美咲のオフィスに顔を出す

ケイタリングはもう到着していておいしそうな匂いが広がっていた

竜崎は自分の年齢と同じ高級フランス赤ワインを美咲に渡した

こんな時は同い年だと楽だなと思った

場の空気を悪くしてはというよりは、明日の作業の方が頭に浮かんで竜崎はすぐにその場を去った

 

土曜の朝、今度は汚れても良い服で集合場所に行った

やはり例の作業着を一式渡された

ホントに心配してるのか?

からかって遊んでるのか

判断に困った

 

前回で勝手はかなり分かった

作業の進捗をコントロールすれば大幅に作業効率を上げれる

しかし、自分は下っ端だ

意見は出来ない

すると先週と同じリーダーが言った

 

「今日は竜崎の指示に従ってくれ。責任はオレが持つ。

いやだったらオレに文句を言ってくれ。

じゃ、竜崎たのむ。」

 

まだ1度しか会ってない自分をここまで信頼してくれてる

体が固まる

すると右隣に熱い気配を感じる

大門がまたそこにいた

 

大門は竜崎に向かって2度うなずいた

そして幼い満面の笑顔を竜崎に送った

 

竜崎は全員の作業効率と、それぞれの仲の良さを瞬時に見抜いて、チーム分けと作業を分担する

いつもの清掃作業は恐ろしく早く終わった

そして、竜崎が気にしていた池の美観に着手した

全員でイメージを共有して、お互いに助け合い、作業は進んで行った

そして作業の終わりを告げる公園のチャイムが鳴った

全員が池の前に立つ

そこには自分たちが考えた以上に美しい池と公園が広がっていた

誰も合図をしていないのにハイタッチの輪が広がっていた

 

「へー!公園いい感じジャン!」

後ろから酔っぱらったハイソな集団がフラフラ池に向かってくる

それは美咲のパーティーにいた仲間達だ

最後尾には美咲もいる

上から見て池の様子がいつもと違ったので気になって見に来たのだろうか

 

「あれ?竜崎じゃね!」

誰かが気づいた

「なんだ、その恰好?!」

その恥ずかしい恰好の自分を思って竜崎は身が縮こまった

 

小学生の時の屈辱が頭に浮かぶ

一番見られたくない相手にこの姿を見られた

全員の嘲笑が公園に響き渡る

何か言っているが内容は頭に入ってこなかった

竜崎は情けなくもくやしい気持ちでいっぱいになる

 

美咲を上目遣いに見る

美咲は現実を直視できないように驚いて竜崎を見ているのが分かった

余計に恥ずかしさが増して消えたくなる

冷や汗が噴き出し、動悸も強くなる

その時だった

 

ドーーン!

 

背中に衝撃が走った

 

大門がその大きな手のひらで竜崎の背中をたたいた

そんまま腕を組み、胸をそらして相手を見下ろしている

あの時、

会った自分を圧倒した大門がそこにいた

 

竜崎は胸を張った

無言で、

直立不動で、

自分自身に誇りを持って、

彼は雄々しくそこに立った

 

1人じゃない

そこには大門がいる

何も怖い物はない

 

美咲は驚きから冷静さを取り戻した

「もう帰るわよ!今日の主役は誰なの?竜崎じゃないでしょ!ほらほら!」

ホストの機嫌を損ねるわけにはいかなかった

皆は美咲の意見に従った

 

全員が踵を返してブラブラと帰っていく

帰っている最中に美咲が竜崎に向かって振り返った

 

無言で口を動かす

 

「み・な・お・し・た・わ・よ」

 

そう言って、右手の親指を上げて敬意を表した

 

竜崎の肩に軽い衝撃があった

大門がこずいてきたのだ

ちょっといたずらっ子っぽい顔で竜崎にウインクしている

 

竜崎はありったけの勇気を振り絞って、美咲に右手の親指を突き上げて返した

自身の豊かさを共有することではなく、

メンターが求める人にできる最大の善は、

彼に彼自身を明らかにすることである

ブライアン・マクローリン

 

最後までお読みいただきありがとうございます

こころが変われば世界が変わる

人生のこの瞬間に感謝を

 

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「このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」

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